アリ・ビーザー
デジタルストーリーテラー / 写真家
この地球上で皆どれほど繋がっているのか、われわれは忘れてしまっている。繋がりには顕在化したものとそうでないものがある。フルブライト・ナショナルジオグラフィックによるデジタルストーリーテリング奨学金の受賞者であるアリ・ビーザーはこの五年間をかけて、自らの人生における繋がり、そしてそれらが、どのように時や場所を経ることで広がっていくのかを探ってきた。彼の父方の祖父であるジェイコブ・ビーザーは 1945 年8月に広島、長崎の両方で原爆を投下した飛行機に搭乗していた、ただ一人の米国軍人である。それから20年経ち、有名なデパートのテーラーの主任をしていた母方の祖父が、「被爆乙女」のひとりとして原爆で受けた傷の治療のためアメリカにわたった日本人女性裁縫師と友人になった。偶然に始まったことだが、両祖父の人生における戦争での繋がりはビーザーの心とその人生に深い影響を及ぼし、平和と和解への一歩として、原爆の生存者たちの証言を探し集め共有するに至ったのである。
門川 大作
京都市長
京都は、豊かな歴史とめまぐるしく変化する現代社会との間を絶えず行き来する象徴的な都市である。京都市長・門川大作もまたそうである。着物を常に身につけ、笑顔をたやさない門川市長は伝統を尊び、日本の美意識や価値観、家族や地域の絆など、こころの創生を重視した、京都ならではのまち作りに力を注ぐ。そして同時に、京都の未来を見据え、世界を視野に、京都の創造力や多種多様な人間力を活かした人口減少社会の克服と東京一極集中是正、すなわち地方創生における全国のモデルを作りたいと挑戦している。その一環として、文化庁を京都に、さらに、京都を世界の文化首都に、という大きな夢を持ち、京都の魅力を世界に発信している。
神谷 明日香
小学生 / 発明者
あなたが「彼らは子供に過ぎない」と、言ったり思ったりしていたら、改めなくてはならない。我々は、大人だけが革新や行動を起こす世界に住んでいない。地域や地球規模で、世界をより良いものにしようと、行動を起こす若者が増えている。愛知県に住む小学6年生で12歳の神谷明日香は、今日の若者の輝ける見本である。昨年、明日香は夏休みの宿題に自由研究が出されたときに、祖父のことに思いをめぐらした。毎日のように、祖父が管理している自動販売機の外側に山積みに捨てられたアルミ缶とスチール缶の分別を祖父がしているのを見ていた。そこで、祖父の仕事を楽にしようと、缶自動分別ゴミ箱を作って祖父を助けた。彼女は今、日本で特許を持っている若者の一人となった。明日香のこの行動は、未来への鍵は、新しい世界を創造する中にだけでなく、今ある世界を新しい視点で見る中にもあるということを、気づかせてくれる。
佐藤 博之
持続可能システムプロデューサー
今日の世界では、われわれは世界中で作られた食料品やその他の商品を簡単に地域にいながら買うことができる。そしてそれを当然と思っている。しかし、ひと昔前まではわれわれの生活はもっと住んでいる土地に根ざしていた。アミタ持続可能経済研究所代表佐藤博之は、こうした地域との繋がりをもう一度強固なものにしようと試みている。2011年、アミタの東北オフィスで働き始めた時から、佐藤はこの目標を実行に移してきた。そこで、再生可能エネルギー及び資源、地域の森里海の資源を使った食べ物などを含めた持続可能な循環型社会を作る支援をしているのだ。われわれが地域に根ざし、環境を保全する持続可能な社会を作ることに再度情熱を傾けつつ、単純にお金だけでは測れない精神の豊かさを作り出すために、お互いのきずなを強めることが佐藤の願いなのである。
吉松 育美
女優/活動家
テレビをつけて美人コンテストを見ることを想像してほしい。美貌と才能に恵まれた人々が優雅な王冠を目指して競いあう。その王冠は成功と称賛、憧れの象徴なのだ。しかしながら、視聴者がテレビを消し、勝者がステージから降りた後に、勝者を待ち受けているのが栄誉だけではないことを私たちはあまり知らない。2012 年の日本人初のミス・インターナショナル、吉松育美が勝利の裏にある負の側面に気付いたのは栄冠を得てすぐのことだった。誇りと成功の年になるはずだった一年が、世界が注目する悪夢の年になった。しかし、吉松は脅迫に屈するどころか、ストーカーと対峙し、女性に対する暴力と闘うことを選んだ。入念に隠ぺいされた不正行為に世界中の関心を喚起したのだ。
イ・ヒョンソ
活動家
人生の中で何かを失うことは避けては通れず、胸が張り裂ける思いがするものである。失うものの大小に関わらず、その喪失感は心の中にずっと残る。たとえ、その経験を乗り越えて成長することができたとしても。イ・ヒョンソは身をもってこのことを知っている。北朝鮮脱北者であるイは、かつて母国を地球上で最も素晴らしい国だと思っていた。しかし、1995年に飢饉、人々の死、残虐行為といった現実が襲ったことで、彼女が持ち続けていた母国に対する想い、母国での生活は粉々に砕け散ってしまった。彼女はその後北朝鮮から逃亡し、新しい生活を始めることで生き延びてきたが、それは家族、家、母国を失うという高い代償を払ってのことだった。脱北ののち、イは立ち上がり、力強い言葉で人権を訴えてきた。国連安全保障理事会で発言し、講演活動や大手の新聞、雑誌、専門誌への寄稿をとおし、彼女自身の物語と、世界中に散らばる脱北者たちの苦境を伝えてきた。世界の人々に対して、自分の人生と、失ったものを公にすることによって、イ・ヒョンソはあまりにも長きにわたって暗黒に閉ざされている悲劇的な人権問題を明るみに出した。そしてすべてを失った経験を希望の光へと変えようとしている。
宗田 勝也
メディア・アクティビスト
かつて吉本新喜劇の劇団員として活動した異色の経歴を持つ宗田勝也。後に同志社大学大学院総合政 策科学研究科で博士号を取得し、現在は、大学でメディア論、多文化共生を教える。日本UNHCR – NGOs評議会メンバーでもある宗田は、難民問題を身近な問題として考えてもらおうと、コミュニテイFM局、京都三条ラジオカフェで番組「難民ナウ!」を制作し、難民の現状を伝えると同時に、日本で暮らす難民に対する偏見を除く取り組みを続けている。 迫害や紛争から祖国を離れ、時には家族との離散を余儀なくされる難民への理解と支援を拡大したいという思いから、現在全国782大学の大学生と協力し、日本と世界における難民支援を考えようというプロジェクトを発足させた。難民問題はともすれば遠くのことのように捉える人が多いが、「誰でも難民になりうる時代に生きている」状況を一緒に考え、身近な取り組みから社会を変えていきたい。
悳炎
和太鼓パフォーマー
太鼓は人類の歴史の中で最も古い楽器の一つである。太鼓の響きを聴くと、人々は必ず手を止めて、リズミカルな音に耳を澄ませる。その音は、我々の鼓動とぴったりと共鳴し合う。京都造形芸術大学・和太鼓教育センターで活動を続けている悳炎は、舞うような振り付けで、雄大で力強い、淀みないリズムをたたき出す。チェコ、イタリア、ポーランドでの海外演奏のみならず、悳炎はワルシャワピアノ五重奏団およびクラシックバレエとのコラボレーションも行っている。彼らはさらに演奏活動にとどまることなく、「心・技・体」をテーマに、自閉症やダウン症の子供や人々の指導を行っている。悳炎の手にかかると、和太鼓は単なる美しさと力強さを備えた楽器ではなく、無限の可能性を持った道具となるのである。
塩田 周三
アニメーションプロデューサー
アニメは芸術の領域にまで達し、そこで創造されるものの限界を示すのは、われわれの想像力のみだ。最先端をいくアニメスタジオの一つで舵を取るのは、ポリゴン・ピクチュアズの代表取締役社長塩田周三である。2003年以来、塩田は同社において、自らが日本の鉄鋼業で培った、効率と改善を軸とする運営を行ってきた。かつては小さなアニメスタジオだったポリゴン・ピクチュアズは、塩田の指揮のもとで、TV製作のみならず有名映画のCGアニメーションも手がける世界的なスタジオへと成長を遂げ、創造性に富んだ作品は数多くの賞を受賞してきた。この間、塩田は日本のアニメを世界に紹介するのみならず、アニメを芸術に変革するための助力を行ってきた。
小川 香澄
コミュニティ オーガナイザー
物語は、われわれの身の回りにあふれている。本のページ上や映画のせりふの中だけではなく、われわれが出会った人々、訪れた場所、さらには纏う衣服の中にも物語は宿っている。ONOMICHI DENIM PROJECTの小川香澄は、百年にもわたる備後地方でのデニム製作の歴史と、尾道の美しさ、そこに住む人々を結びつける。漁師、農民、建設作業員といった尾道の人々の生活が、この丈夫な生地の中に長く息づいてきた。デニムパンツは厳しい仕事を物語る。たとえば漁師が魚網を強く引っ張り上げるときにできる塩分による脱色や建設作業員の道具ベルトが当たってできた擦り切れ等。なかにはそれらを不完全なものと見る人々もいるが、それらの個性が、決して意図して創れるものではない味であり、履く人の人生が刻まれた世界に1本しかないデニムなのだと、小川は自負心を持って宣言する。
ジャイソン・スー
起業家 / TEDx アジアアンバサダー
TEDイベントに参加することが予想を超える結果を生むことがある。たとえば新しい交友関係が始まったり、全く新しいやり方でものを考えたり、生き方を改めたり、行動したりするきっかけになるといったように。Jason HsuがTEDカンファレンスによってた受けた影響はとてつもなく大きかった。台湾のニュース編集者、サンフランシスコでの起業家、ユネスコのボランティアという肩書きを持つ彼は、TEDカンファレンスに参加した後、それをモデルとした台北のイベント、The Big Question Conference を立ち上げた。そして、2009年にTEDxプログラムが始まると、Hsuはすぐさまアジアで二つ目となるTEDx 台北を設立した。現在、TEDx台北のキュレーター、TEDxアンバセダー・アジア、および MakeBar台北の共同創立者で責任者ある彼の目標は、TEDや全世界の TEDxイベントと同じく、新しいアイデアを台北に紹介し、地域で生み出されたアイデアを世界にシェアすることである。
ステファン・ チョウ
写真家
われわれ人間の目には、この世界は完璧に織り込まれて幾重にも重なり、近くのものにも遠くのものにも焦点が合っているように見える。ところが、その同じ世界が絵筆やカメラのレンズを通すと、そこではデザイン上の理由、あるいは必然性によってその完璧さが損なわれる。それは仕方のないことに思える。北京在住の写真家、ステファン・チョウにとっては、しかし、そうではない。数々の賞に輝いた彼の写真によってわれわれは、ほとんど不可能なまでの鮮明さをもって、写真の平らな表面の奥にあるものを見せるような、独特の光と影の繊細な均衡のとれた世界へといざなわれる。チョウの作品には遊園地を俯瞰した写真や、山々の高みを非現実的に描きだしたもの、有名人や権力者の肖像などがある。彼はまた、対象に深く踏み込んで、「貧困線」と題した世界的プロジェクトを通し、貧困を理解する方法を探っている。チョウが与えてくれる贈り物によって、われわれは自分の目で見ることができないものが見え、それによって自分たちの世界や、お互いの表面的な描写以上のものを見ることができる。
井上 太郎
ミュージシャン
その光り耀く木と繊細な弦でできた愛らしい楽器は、彼が抱えると一見とても小さく見える。しかし、井上太郎の巧みな指が、ひとたびそのマンドリンを包み込むと、その繊細な弦から、リズムとメロディーが飛び出して来るのだ。井上太郎は14歳の時初めてマンドリンを手に取り、その楽器の魅力に惹かれていった。その後スキルを磨くためにブルーグラス学科のある、アメリカの東テネシー州立大学に進んだ。そこで彼は、独自のブルーグラス音楽を生み出したのである。卓越したメロディー奏者である太郎は、TARO&JORDANやThe CASHとしてのツアーをはじめ、アメリカ、カナダ、日本の多くの一流のミュージシャンとの共演も行っている。日本人というルーツを持った太郎のブルーグラスミュージックは、聴衆に文化的、音楽的なものを超えた世界を体験させると同時に、我々の本来の姿、確かな自分自身について熟慮させる世界へ誘う。
吉川 浩一
ロボット クリエイター
ゆらゆらと健気にボールの上でバランスを保ちながら 10名で美しいフォーメーションを披露する球乗り型ロボット「村田製作所 チアリーディング部」。小柄なボディの中には、高度な制御技術、位置計測技術、通信技術が搭載されている。そしてこれらの技術は、私たちの生活のあらゆる分野において応用が可能である。村田製作所 広報室マネージャー吉川浩一は、2005年に発表した自転車型ロボット「ムラタセイサク君」の開発メンバー6人の一人。そしてその経験を元に「村田製作所 チアリーディング部」の開発ではプロジェクトマネージャーとして参画し一から開発に携わってきた。これらの魅力的で愛らしいロボットたちは、笑顔と元気を伝えるだけでなく、エレクトロニクスが描く豊かな未来を伝えてくれる。
川上 隆史 (全龍)
禅僧
その瞬間に生きるということは、我々にとって難しく思われる。我々の脳と気力は、常に過去と未来の間にある想念や注意力との葛藤の中にあり、真に今にとどまることをしていない。京都春光院の副住職である川上全龍は、「マインドフルネス」、つまり、今を平常心でいることを大切にする能力を、禅と瞑想の中心に置く。川上は同性愛カップルの結婚式を仏式で執り行うことで、昨今世界的に注目を浴びていているが、今、必要とされているものを受容し、それに忠実であるという彼の教えと生き方に基づき、何人の結婚式も平等に執り行うことが大切であると考えている。彼の教えは、我々が前へ前へと先に急ぐのをやめ、ゆったりと歩み、今、そうありたいと願っている自分になることができると思わせてくれる。